“キミがいるなら大丈夫vv”
〜しあわせな聖夜を迎えるためには
2
梵天が訪問しますと伝えて来たときは、
時期といいタイミングといい、
あああ もしかせずとも原稿だろうなと気が重くなった。
こんな慧眼、いっそ当たらにゃいいのにと本気で思ったほどで、
だって どんなに少ページでも、作業に掛かれば数日がかりで忙殺されるから。
こたびは何の用意もなかったのだから尚更で、
ネタも ゼロから捻り出さねばならず、
そうともなると、家事のほうもやや疎かになり、
イエスの食事は作り置きとなるし、洗濯や掃除も溜めおかれること請け合いで。
それより何より、
こちらの集中の邪魔は出来ぬと考慮するイエスだろうから、
会話や何やも遠慮され、彼へまで窮屈な想いをさせねばならぬ。
“それって私にだって、あのその、苦痛なんだけどもな。///////”
胸のどこかから ちょろりとあふれたのは、
押さえ込めなかった本音の一端。
何でもない拍子に眸と眸が合ったら、
眸を張って“どうかした?”と訊くでなし、
嬉しそうに ふふーvvと微笑ってくれるとか。
テレビを観ていてキリのいいところで立ち上がれば、
ちょっぴり寂しそうに眉を下げて、
どこ行くの?と訊きたそうなお顔になることとか。
そういうちょっとしたこと、言葉も要らないやり取りなどなどを
くすぐったくも温かいなぁと堪能出来なくなるワケだから。
それもあってのこと、
引き受けるのは気が重いなぁなんて逡巡していたというのにね。
『去年と同じ条件で、
雑貨屋さんからアルバイトを頼まれちゃったの。』
何と、当のイエスが
お買い物先からそんな御用を拾って来たなんて、
ブッダにしてみりゃ正しく想定外なこと。
“いやまあ、日頃の働きぶりも買われていようから、
あり得ないことじゃあ ないっちゃなかったのだけど。”
この時期に限らずアルバイトには時折出向いていたイエスで、
純朴素直な働き者だし、お客層の女子高生にもウケがいい。
それより何より、本人の人柄がいいと来ては、
それでなくとも書き入れどきのクリスマスや歳末前に、
どうか助っ人に来てとのお声が掛かるのも道理というもので。
だというのに、自分への原稿依頼と同じほどに失念してたなぁなんて、と
「……。」
微妙に呆然としたまんま、ブッダがそれへと感慨深くなっておれば、
「あ、あのっ。
いつもと同じで4時間って約束にしたよ?
だからあのあの、
ブッダの原稿も、黒く塗るとことかお手伝い出来るし。」
そうなんだとか え〜とか、
すぐさまの反応が返って来ないのを一体どう捕らえたものか。
イエスがわたわたと慌てつつ、
そんな言いようを付け足して来て。
挙句には、
「相談もしないで決めて来て ごめんっ。」
特に悪事でもないというに、一方的に謝る始末であったれど。
“おやおや。”
反省してのごめんなさいにしては、
畏れ多いと構えてのこと、身を遠ざけて平伏すでなく。
当人のお膝にあったブッダの手を両手がかりで包み込み、
真摯な想いよ届けとばかりの一途な懇願になっているのが、
見ていて何とも微笑ましいなぁと。
すっかり捨て置かれておいでの梵天様の口許へも
柔らかな微笑を招いたほどで。
「いやあの、うん。怒ってなんかいないってば。」
そこはさすがに誤解を解いてもらいたくって、
謝られるようなことじゃあないよと
ブッダの側からも違う違うとかぶりを振って見せ、
何日ほどなの? 去年と一緒ならクリスマスまで?
うん、明日からの1週間だよ?
お手々つないで詳細を報告している間も、
互いのお顔しか視野にも意識にもないようなお二人だったのへは、
“これは早い目に我に返ってもらったほうが…。”
それこそ大人の配慮にて、
いかにもわざとらしく“んんんっ”と咳払いをし、
「では、
原稿は引き受けていただけるということでよろしいのですね。」
「…っ☆」
梵天様が憂慮したよに、
すっかりと二人の世界へ浸りかけていたものだから。
効果覿面、
あわわと我に返って、繋いでいた手も離れた最聖たちだったものの、
「で、でも、8本4ページ以上は無理ですからね。///////」
こちらにだって所用はあって、
大掃除だの年越しや新年の準備だの、忙しいんですからと。
照れ隠しに早口になって言いつのる如来様の傍ら、
「それと、色つきだと私の出る幕がありませんから。」
それだと手伝えないからだろう、イエスまでもが付け足した条件、
はい結構ですよと梵天氏も鷹揚に頷いて。
何だか変梃子りんな段取りながら、契約成立と相成ったのでございます。
◇◇◇
くどいようだが、現在 絶賛バカンス中の最聖のお二人。
こちらのコンドミニアムでの住まいにおいては、
几帳面で働き者のブッダが、家事のほとんどを担当しており。
特に炊事は
食材の調達から管理という家計にかかわるところから、
勿論の調理に配膳までと、
完全に彼が受け持っているということ、
梵天様にも知れており。
年末は忙しいのだと言われたからか、
『何でしたら、私も日参してお手伝いしましょうか?』
勿論、原稿ではなくイエス様のお世話を、と。
帰り際になって余計なことを言い出した彼だったものの、
『要らぬ世話ですよ。』
当然のことながら、
ブッダに冷然と断られたのは言うまでもなくて。(笑)
『第一 あなた、
自分の身の回りはすべて従者にやらせているじゃないですか』
出来たとしても神通力で片付けるのなら願い下げですと、
お帰りの際まで可愛げなく接してお見送りしての、さて。
“雛型はいつもと同じサイズだったな。”
内容も新年特別号に向けてというだけで制約はなく、
特に打ち合わせも要らぬとされたので。
さあバイトだと早速出掛けるイエスを送り出し、
ブッダのほうは さあネタをと帳面へ向かうかと思いきや、
“温めるだけで食べられるものがいいよね。”
キッチンスペースに立ち、
まずはご飯の作り置きに取り掛かる、優先順位の徹底ぶりよ。
カレーやシチュー、肉ジャガ風ポトフ煮といった、
途中まで同じ作り方でいいものを
とりあえず3日分と どさりと手掛け。
ゴボウのささがきと薄切りレンコンを甘辛に炒め煮たキンピラ、
今が旬のホウレン草は、湯がいておけば
まずはそのまま醤油をかけ、
二日目は卵でとじたり炒めたりという2通りの食べ方で消化出来る。
甘酢に漬けたキュウリとキャベツ、ニンジンの千切りは、
やっぱり3日ほどは保つので、
食べたいだけの量をギュッと絞れば
コールスロー風サラダとしてそのまま食べられるとし。
後は食事のたびにご飯を炊いて、
みそ汁に卵焼きだのモヤシ炒めだのを付け足せばよしとして。
それからやっと、六畳間のコタツにあたってネタを捻り出す作業に入る。
毎日のイエスとのやり取りだとか、お買い物に出掛けた先で見聞したあれこれ。
そんなのの中で拾った掛け合いとか、
天界人の自分にはおややぁ?と感じられたことを芯にして、
楽しくて洒脱なお話になるよう、
ぐりぐりと練り上げたり、折って畳んで裏返したり。
そこからネームを切ってゆくという作業に入りつつも、
「……。」
ふっと顔を上げては とある一角に視線がつい向く。
窓辺側の角へ据えられた Jr.の足元、
壁との隙間にさりげなく置かれた紙袋が一つ。
イエスが5時まで帰らないのは仕方がないことと、
いつぞやよりはお留守番にも慣れたもので、
自分しかいない空間なのへは納得もしている。
そうではなくて…早く取り掛かりたいことがあるものだから、
それへと用意したあれこれを詰めたそれへと目が行くし、
ついつい執筆からも手を放したくなるのが困りもの。
ああいかんいかんと思い直して、帳面と向かい合い、
集中集中とお念仏のように呟いて、
お弟子の少年僧を主役とした軽妙な四コマまんが、
頑張って生み出す作業へ没頭する釈迦牟尼様だった。
◇◇◇
冬が駆け足で来たのみならず、
とんでもない勢いで寒気が南下して来た煽り。
まだまだ冬も序章のはずが、
本格的な突風や豪雪に見舞われ、
週末毎に厳寒に震え上がったし、
冬至前には爆弾低気圧までやって来て。
何とも散々だったそんな師走も、いよいよの大詰め。
宵の街を華やか且つムーディに飾っていた
色とりどりのイルミネーションの、始まりのお題目でもある、
イエス・キリストの生誕祭、クリスマスがやって来る。
“世間様は相変わらず
イブの方こそが本番でメインって扱いみたいだけど。”
こちら様では“お誕生日”を祝うのだという主旨がしっかとあるので、
25日をこそ“当日”扱いとしておいで。
イエスが手伝ってくれたこともあって、
原稿は無事に3日前に仕上げて梵天の手へ渡しており、
さあ いよいよだと、本当に手掛けたかったことへも張り切っての末に
転がり込むよに迎えた当日であり。
『じゃあ行って来ま〜すvv』
贈答品からパーティーグッズまで取り揃えていた雑貨屋さんが、
クリスマスの贈り物を求めるお客で忙しかったのは昨日まで。
今日も一応はクリスマス仕様のままながら、
棚のあれこれ、少しずつ移動させて差し替えて、
営業と並行でお正月用の商品への入れ替えに終始しそうだということで。
なので大急ぎで帰って来るねと、出掛ける時点でそうと約して、
お元気に出掛けていったイエスを見送り。
ブッダのほうは、宵に二人で囲み合う、宴の準備に取り掛かる。
『それと…。』
思わぬ運びで頓挫しかけた贈り物のほうも、
ぎりぎりまで頑張ってみようと、
窓辺へ引っ張り出した紙袋への決意に拳をぐうにして、
忙しい一日との格闘に取り掛かった、
今日だけは ある意味“闘う如来様”だったようで。(おいおい)
“今日を頑張るために原稿に没頭したんだものね。”
腕を振るって料理を作り、
今年はケーキもお手製をと奮発した。
茶わん蒸しに、パイで蓋したクラムチャウダー、
大豆ミートで作った鷄の唐揚げ風に、
シーザーズサラダとさつまいもご飯。
デザートのケーキは
シフォンケーキを生クリームとイチゴでデコレートしたもので、
“こちらの材料費を捻出出来たのは、原稿様様だったかな”
買うことになっても問題はなかったほどに潤ったけれど、
それでも時間の潰えだけは どうにもならなんだのが悔やまれる。
下ごしらえを済ませてから、
昼食もそこそこにコタツに陣取ったブッダが、
時間も忘れて没頭した例のもの。
荒くなっては何にもならぬと、
逸る気持ちを抑え、ひたすら丁寧にと手掛けたが、
“…やっぱり無理かぁ。”
残念、もうそろそろコンロに火を点けてあれこれ取り掛からねば。
肝心な完成が大きくずれ込むという限界になってしまい、
已なく手を止めて、小さく溜息をついた彼だった。
「ただいま〜♪」
それから程なく、相変わらずの朗らかさでイエスが帰宅し。
キッチンに立ってたそのまま、
上がり口までを出迎えるよに立ってゆけば、
「はい、メリークリスマスvv」
花屋さんで眸と眸が合ちゃったという、
ガーベラとクリスマスローズのブーケを差し出してくれたサプライズへ、
わあvvと沸き立った想いに、早速にも胸底がきゅんと締めつけられる。
いつもいつまでも屈託のないまま、
振るまったり語ったりする彼の素直さに、
ああ、この人を好きになって善かったとまたしても思う。
「ん〜、いい匂いするvv」
「すぐにも食べられるよ。でも、お風呂に先に行っとかないか?」
それともケーキの前に食休みがてらのお散歩する?と、
どっちがいいかと選ばせるようにすれば。
まるで重大な案件を扱うように
切れ長の目許をぎゅうと眇めて考え込んでから、
「今夜も寒くなりそうだしね。早いうちに入って来よっか?」
受け取った花束を手にしているところが隙になろうとか、
そこまで周到だった彼ではないだろが、
“オリエンタル・エキゾチックな キュートさんだものねvv”
高貴で厳粛な風格があるにもかかわらず、
そこが恋情がらみの想いならでは、
大胆にも触れたいと欲してしまう気持ちを押さえ切れなくて。
まだ三和土に立ってたそのまま、
ちょっぴり身を延ばし、二の腕をそっと捕まえて、
不意打ちみたいに頬へとキスをして。
「な…。////////」
さすがに驚いて目を見張ったブッダへ、
「今からお風呂に行っちゃうと、
まだまだって、帰ってからだよって、お預けになっちゃうでしょう?」
だからだよんと ほんの至近から微笑って見せるメシア様に、
「〜〜〜〜ずるい。//////」
一見怒ってるようにとれたほど、
口許たわませ目許も力みから張ってしまわれた如来様だったれど。
イエスが“ありゃ失速しちゃったか”と怯むのさえ間に合わず、
「〜〜〜〜。//////」
「………え?//////」
ふわりと、ますます近づいて来たお顔が、
自分の頬とすれ違い、そのまま肩先へ伏せられる。
おでこや鼻先がもぞもぞ擦りつけられ、
福耳のひやりとする柔らかい感触が、
結び目ほどいていたマフラーの上、首の肌へと触れて、
“ああああ、何か何か きゅうんとするんですけれどっ!”
判ったから早く風呂行って来い、お二人さん。
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*キリがない罠に掛かったらしいです。(笑)
甘い展開にこうまで飢えてたか、自分。
内職には祭日ないから、
書き上がるのクリスマスに間に合うか、微妙だなぁ…。
めーるふぉーむvv


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